キャバ嬢がフリー客にサービスを行っているならば、お店はそれに見合うだけの店づくりをしなければなりません。
例えば内装などのハード面と、オペレーションなどのソフト面が考えらえます。
まず、お店を形作る基本となるものは店格と客層です。
キャバクラにも高級店と激安店に分けられますが、これが店格に当たります。
店格と客層は正比例するものであり、その店格に合った客が訪れ、そのお店の定着していくものです。
このことはキャバクラに限ったことではありません。
キャバクラの店格と客層
例えば、喫茶店を例にとるとよくわかるでしょう。
コーヒーショップにも色々ありますが、ここではドトールコーヒーと珈琲館とスターバックスで考えてみましょう。
ドトールコーヒーは1杯200円以下で本格コーヒーを飲むことができることが売りとなっています。
レジでオーダーするとその場でコーヒーが提供され、片付けもセルフで行う形となっています。
長く居座ったり商談に用いるような雰囲気ではなく、どちらかというと立ち飲みであり、ちょっとした時間に一服するという雰囲気です。
駅前の立地が多く、客はサラリーマンがメインです。
店格とは、お店が醸し出している雰囲気です。
珈琲館では一杯300円ちょっとのコーヒーを提供し、落ち着いたBGMが流れており、対面で4人掛けのイスを占領して一人でくつろぐことができます。
席にはウェイトレスが注文を確認に来て、席まで運んでくれます。
このような業態であることから、ビジネスの商談に用いることもできますし、キャバ嬢と同伴する際に待ち合わせに利用することもできます。
したがって客層は低くなく、うるさいがきんちょやギャルが居座っているというようなことはあまりありません。
スターバックスはアメリカのコーヒーショップであり、アメリカ・テイストを日本にもそのまま持ち込んでいます。
それがブランドとして認められ、繁華街を中心に立地しており、品揃えや取扱商品などのすべての呼称もすべてアメリカンスタイルです。
このほか、店内オペレーションも全てアメリカのノウハウをそのまま用いており、商品や店員の動きなどのすべてがお店のテイストとなり、女子高生、OLなどの若い女性に特に人気が高いです。
とにかくおしゃれであり、おしゃれと無縁の人は近寄りがたいお店となっています。
それぞれを分析してみると、珈琲館はそれまでの喫茶店の進化系であると言えるでしょう。
ドトールコーヒーは価格を武器にして珈琲館を破りましたが、そこへさらにスターバックスが進出し、ファッション性を売りにしてさらに上を行くようになりました。
こう書くと、それぞれのコーヒーショップは一見すると競争しているように見えますが、実際にはそれぞれのお店に適した客をそれぞれが獲得し、うまく棲み分けています。
店格ということに関しては、キャバクラもこの例と変わりません。
高級クラブと見間違えるような豪華絢爛な内装を持つキャバクラが激安店として若いサラリーマンをターゲットにすれば、おそらく採算が取れなくなることでしょう。
逆に安っぽい内装の低コストのお店で飛びきりの美人ばかりを揃えて高級店の価格設定にしても、おそらく人気は出ないでしょう。
そのキャバクラ店のイメージを明確化し、そのキャバクラ店のお店に見合ったレベルのキャバ嬢を集め、料金設定もすり合わせてはじめて、繁盛店への道が開けてくるのです。
つまり、客からしてみれば自分が支払った金額に見合ったサービスが得られれば満足できるという事になります。
ホテルのラウンジの1杯1000円のコーヒーと、大衆喫茶店の1杯100円のコーヒーが仮に同じ豆を使って同じコーヒーカップで提供されていたとしても客が文句を言わないのは、そのコーヒー以上に雰囲気や店員のサービスレベルなどといった店格を値踏みしているからなのです。
様々なノウハウ
以上のことから、そのお店の店格に見合った客層を獲得して維持していくためのノウハウが重要になることが分かります。
いわば店内において客にどのようなマーケティングを行うかという事ですが、以下のようなノウハウが用いられることが多くなります。
価格設定のノウハウ
キャバクラ店の開店時間は19時くらいが一般的ですが、その時間帯に客の来店があるのは少々不思議です。
サラリーマンならば残業している人もいるでしょうし、仕事が終わってから同僚と一杯飲むにしてもキャバクラに直行という事はなく、この時間はまだ居酒屋で飲んでいる時間帯でしょう。
同伴のキャバ嬢は入店時間が開店時間より1時間程度遅れていることもよくあります。
開店に合わせてキャバクラに直行する人もいますが、よほどのキャバクラ好きでなければあまり見られません。
ほとんどの場合は居酒屋などで飲み、アルコールが入って勢いづいたことによって、「よし、キャバクラでもいくか!」となるのです。
キャバクラ店をはしごすることもありますが、その場合でもやはりまずは食事、その後にキャバクラのはしごをし、ラストにラーメンなどで〆るのが一般的な流れとなります。
したがって、キャバクラが忙しくなる時間帯は、21~1時くらいとなります。
もちろん、不景気なときは終電までに切り上げてタクシーではなく電車で帰る人が多くなるため、このコアタイムも短くなります。
キャバクラが開店してから、客が食事をしていたり、居酒屋で一杯やっている時間帯はお店にとってアイドルタイムとなります。
しかし、アイドルタイムにもキャバ嬢への給料は発生するため、キャバクラ店としてもただボーっと客を待っているばかりではいけません。
そこで、時間帯によって段階的に価格を設定するという発想が生まれました。
つまり、開店から客が集まり始める20時までは通常より安い8000円に設定し、次に20時から21時までは9000円とし、21時からラストまでは1万円と言った塩梅です(もちろん、これは1万円を基本のセット料金とした場合の例であり、お店によって料金は異なります)。
このような価格設定をすることによって、早い時間での来店を促すことができます。
この時のポイントは、値下げの幅を2000~3000円とすることです。
なぜならば、極端な差をつけてしまうと客層が変わってしまい、店格に悪影響を及ぼしてしまうからです。
実際、一時期激安の価格設定がキャバクラ界で流行ったことがありました。
すなわち、18時から19時までは1時間2000円で遊ぶことができ、19時以降は8000円にするというものであり、アイドルタイムに出血大サービス(キャバ嬢の時給より安いため赤字)を行いました。
このような価格設定は普段キャバクラに来ない層を取り込んで顧客を開拓しようとしたのですが、これは全くの失敗に終わりました。
なぜならば、新規に来店した客のほとんどは単に「普段キャバクラに来ない」のではなく「キャバクラにほぼ興味がない」というキャバクラとは無縁の人々であり、「安いなら行ってやるか」という態度の中年層が多かったからです。
さらに言うならば、「居酒屋より安いなら言ってやるか」という態度による来店であったのです。
彼らの中からはたくさんの常連ができましたが、それはあくまでも2000円の時間帯にだけ訪れる常連客でした。
これはキャバクラによっては想定外のことでした。
このようなことはキャバクラ以外でも見られることであり、目玉商品だけを買うバーゲンハンターと呼ばれる人がいるのと同じです。
キャバクラ以外でもバーゲンハンターを排除するための方針が採られつつあるようです。
もちろん、キャバクラはすでにこの方針から撤退しています。
安すぎる価格設定にしてしまうとバーゲンハンターの巣窟になってしまい、店格が落ちてしまいます。
店格は客層とともに作り上げられるものであり、出店してから時間と労力を注いで培うものです。
しかし、価格のハードルを安易に下げてしまうと客層が変わってしまい、店格が下がってしまうのです。
店の活性化
お店にとって一番大事なことは何か考えたことがあるでしょうか。
それは案外簡単なもので、「活気あふれる店づくり」にほかなりません。
店は生き物であると言われます。
もしスタッフやキャバ嬢の間にやる気のない雰囲気が蔓延していれば、お店に白けた空気が漂ってしまいます。
このことの分かりやすい例がコンビニです。
店長の指導が厳しいコンビニはそうではありませんが、普通のコンビニには活気がありません。
時給は安く、業務は単調であり、店員はただバイト時間が終わるのを待つばかりでやる気が感じられないからです。
いくら品揃えが良くても、お店の雰囲気は白けたものであり、これに加えて店員の態度が非常に悪かったりすれば、そのコンビニを避けようと思う客は多くなることでしょう。
このことは筆者にも思い当る所があります。近所のファミリーマートで10個入りの卵を買ったところ、調理する時によく見てみると卵の賞味期限が買ったその日だったのです。
10個入りの生卵の賞味期限が買ったその日というのはあり得ないことであり、商品管理ができていないのは店員の怠慢です。
その時から筆者はそのファミリーマートには近づかないようにし、少し遠くのセブンイレブンに通うようにしました。
そのファミリーマートは間もなく潰れ、セブンイレブンが出店しています。
この二店を比較すると、どちらも品揃えはそれほど変わらないコンビニであり、どちらも店員はアルバイトです。
しかし、ファミリーマートは店員にやる気が感じられず、閑散としており、入った瞬間に購買意欲を削がれる雰囲気だったのにたいし、セブンイレブンは店員が機敏に動き回っており、客が非常に多くて活気があり、入った瞬間に購買意欲をそそられる雰囲気でした。
間違いなくお店が客を呼んでいるのであり、これはコンビニもキャバクラも同じことでしょう。
お店全体がチームワークを組んで効率よく機能していること、積極的で明るい雰囲気があること、活気のあること、これらは全てイキイキとした波長を生み出すものであり、それは必ず客にも伝わっています。
そのようなお店には自然とファンができるものであり、客足が絶えなくなります。
その意味において、キャバ嬢の働きはもちろん重要ですが、より重要なのが黒服やウェイターと言えるでしょう。
マネージャーやラッキー(キャバ嬢のつけ回し担当のスタッフ)ではなく、客の目線に直接触れる黒服やウェイターの働きは大切なのです。
キャバ嬢が手を挙げたときは素早くその意図を汲み取って灰皿を交換する、氷を補充する、おしぼりを届けるなどとまめまめしく動きます。
キャバ嬢の意図を汲み取ることができないウェイターばかりであれば、お店の空気は非常に乱れるものです。
キャバ嬢が何度も「すみません」と手を上げる姿を見せられると快適さがなくなってしまい、客の楽しい気分も削がれてしまいます。
そのような姿を、客には見せてはならないのです。
このほか、キャバ嬢と黒服の関係ではなく、客と黒服の関係も大切で微妙なものです。
黒服の接客態度についてカチッとしたマニュアルを作っているキャバクラもありますが、そのようなお店では黒服の態度が柔軟性に欠け、客と完全に一線を引いているように感じる客もいます。
マニュアルをそこそこに作っているキャバクラでは、マニュアルと同じくらいに実地での経験を重視しているため、客と黒服が親しくなることができ、それがお店の店格と客層の維持に役立つ場合も大いにあります。
「ご指名は?」と聞かれたときに「○○くん」と黒服の名前を冗談で言うように、黒服との関係を楽しむことによってキャバクラをより楽しむ客は多いのです。
キャバクラの構成要素はキャバ嬢、黒服、客の3つです。
そして、この3つの要素がすべてうまく絡み合ったときに、「楽しさ」や「癒し」といった同じ目標に向かっていくことができ、一体感も生まれ、本当に活気あふれる雰囲気となるのです。
逆に、この3つの要素がそれぞれバラバラの方向に向かっていけば活気など生まれるはずはなく、むしろ殺伐とした雰囲気となり、客は寄り付かなくなってしまいます。
新陳代謝を促すこと
お店の雰囲気をよくするためには、空気を淀ませることなく常に新鮮でありたいものです。
そのためには、店格に合うキャバ嬢の新陳代謝もとても重要な要素となります。
上記で少し触れた通り、お店は生き物です。
そうである以上、お店の商品であるキャバ嬢はフレッシュであることが望ましいのです。
指名するキャバ嬢はある程度の期間固定化されることが多いし指名をずっと変えない客もいますが、そのような指名客もずっと指名キャバ嬢の接客を受けられるわけではなく、指名キャバ嬢が席をはずしている間はヘルプの接客を受けることになります。
客にとってお目当ては指名キャバ嬢がメインですから、ヘルプまでいつも同じ顔ぶれだと飽きてしまうため、ほどよく入れ替わってフレッシュさを保っていた方が好ましいのです。
また、キレイなキャバ嬢も人間ですから年を取っていきます。
キャバ嬢の入れ替えに消極的なお店は、いずれフレッシュではない、年を食った(と言っても20代後半や30代前半ですが)キャバ嬢ばかりになってしまいます。
そうなると、周りのキャバクラは若いキャバ嬢を積極的に入れているのですから、それと比較するとお店の雰囲気そのものが古びた雰囲気になってしまいます。
だからこそ、少しずつ入れ替えて雰囲気を変えていくことが大切です。
これは、アイドルグループが好例でしょう。
AKB48は初期メンバーでいつまでもやっていくのではなく、少しずつ卒業させて年齢の低いメンバーを入れることで新陳代謝を図っています。
その他にも、SKE48やNMB48といった姉妹グループの立ち上げや、グループ内の数人をセットにしてユニットを作るなどして、常にリフレッシュにしています。
筆者のように何が良いのか分からない人にとっては「ファンたちはよく飽きないな」と不思議なのですが、おそらくこのような意識的な新陳代謝がファンを飽きさせないのでしょう。
キャバクラもこれと同じであり、AKBメンバーをお店のキャストと考えると良いでしょう。
このほかにも例があります。
例えば何度も例に挙がるコンビニですが、なぜコンビニは客足が絶えないかと言えば、それは取扱商品の新陳代謝が非常に速いからです。
根強い人気のロングセラー商品は除き、それ以外の商品は入れ替わりが激しく、またコンビニが自社開発した商品も盛んに発売されています。
もしコンビニが年がら年中同じ商品ばかり扱っていれば、売上げは確実に落ちるでしょう。
また、新陳代謝ということではキャバ嬢の新陳代謝だけではなく、客の新陳代謝を促すことも大切なことです。
いつまでも通ってくれる客がいること自体は非常に良いことなのですが、だからと言って新規顧客開拓を怠ればやはりお店の雰囲気がアットホームすぎてキャバクラ独自の「異空間」としての価値を損なうことになります。
いつも新しい客が増えていき、キャバ嬢にも新入りが入ってきて、その一方で卒業していく客(独身だった客が結婚するなど)がいて、卒業するキャバ嬢もいて、このバランスがうまく取れているお店こそが新陳代謝が適切に行われているお店であり、活気のあるお店となるのです。
しかし、これも程度が難しく、新陳代謝のためとはいえ急激にたくさんのキャバ嬢が退店してしまうと、その客を指名していた客も抽出してしまいお店が潰れてしまいます。
このバランスのとり方が上手いのはショーがあるキャバクラです。
指名No.1のキャバ嬢や指名上位のキャバ嬢はたいていの場合ショーメンバーに入っているものですが、これは言うまでもなく、そのような人気の高いキャバ嬢をショーメンバーに集めることによってほとんどの客の視線を集めることができ、高い営業効果を上げることができるからです。
したがって、キャバクラ店という閉鎖社会においてはショーメンバーの一員であることはすなわちそのお店のカーストにおいてトップの階層に君臨していることになります。
それは言うまでもなく、ショーがお店の売りであり、ショーメンバーがお店の中でも指名本数においてスター的な存在だからです。
ステージでスポットライトを浴び、皆の声援を受けることを許された存在であり、お店のアイドルなのです。
ショーメンバーになると歌や踊りのレッスンがあるため、出勤時間は早くなりますし、その分睡眠時間や休息時間は短くなり、体力的にもきつくなります。
しかし、ショーメンバーたちはスポットライトを浴びることには快感があり、ショーでの活躍が指名に繋がることを考えるとよくできたシステムです。
ちなみに、キャバクラにはなぜショーというシステムができたかと言えば、元々踊り子を雇ってショーをしていたところ、経費削減のためにキャバ嬢に躍らせたら大人気となったからだと言います。
ショーメンバーには定員があります。
そのため、新人キャバ嬢は空きが出るのを待たなければなりません。
また、一旦はショーメンバーになれたとしても、活躍できるのは一部のメンバーであり、ほかのメンバーは「その他大勢」の要員と扱われます。
AKB48でも主要メンバーを人気上位の7人を「神セブン」などと言って活躍させるようですが、それと同じようなものです。
具体的には、ボーカルを勤めるメインのメンバーと、その他のダンス要員とに分けられます。
このような明確なキャスティングは、すべてのキャバ嬢にとって「指名を取ればあそこ(ショーメンバーのメインメンバー)に立てる」という認識に繋がり、向上心の源になります。
そして、「今のままでいいや。そこそこ稼げてるし」というような意識の低さ、そして意識の低さから生じるマンネリを防いでくれます。
そして、明確に指名本数で競わせるというシビアなシステムのおかげでショーメンバーは絶えず入れ替わっていきます。
過剰な入れ替わりでもなく、またゆるい入れ替わりでもなく、客の指名が直接反映された入れ替わりであるからこそ、ショーメンバーの入れ替わりは顧客満足度が高く、お店にもフレッシュさをもたらします。
柔軟性を持たせる
キャバクラに関心がある人にはわかることですが、キャバクラはしばしば料金やその他のシステムが変更されることがあります。
例えば、セット料金が変わったり、セット時間が変わったり、指名料が導入されたり、ショーの回数が増えたり、ショータイムの1回あたりの時間が増えたり、お酒の種類が増えたり・・・と言った具合です。
もちろん、時にはネガティブな変更もあります。
注意して見ていると頻繁に変更しているキャバクラも多く、キャバクラ業界というのは不安定なのかな、迷走しているんじゃないかな、などと思うこともあるかもしれません。
しかし、実際にはそうではありません。
近年、長引く不景気の影響で派遣社員の比率が高くなったり、リストラが行われたり、殺伐とした景気が続いています。
経営の厳しい企業が、年功序列によって賃金が高くなった中高年層を早期に退職させることも珍しくなくなっています。
しかし「リストラ」を社員側や大衆側から捉えるとイヤなイメージになりますが、組織側から見れば組織の再構築にほかなりません。
生き残りのために組織の問題点を洗い出し、改善を図って修正を加えたとき、その修正方法がリストラであったというだけのことです。
好景気の時代に雇用しすぎていたならば、不景気の時代には人員過剰になるのは当たり前のことです。
その他にもあらゆる修正が加えられているのですが、直接家計に打撃を与えるのがリストラという事もあって一人歩きした結果、悪とみなされ騒がれるようになっているのです。
リストラはこのように、リストラがそれ単体ではなくあらゆる改革の一部分であるように、キャバクラにおけるあらゆる改革も決して迷走しているわけではなく、修正点を見つけ出して改革をしているにほかなりません。
言ってみれば、企業がリストラなどと言う目立った修正の必要に迫られる前から、キャバクラ業界では絶えず改革を繰り返していたのです。
その意味では、時代の先端を走っていたとして評価することができます。
マーケティングの世界では、組織には二つの形態があるとしています。
それは、「機械的組織」と「有機的組織」です。
機械的組織とは、従業員の作業を自動化する、つまり働く人を組織の歯車の一つとして扱う組織です。
それぞれの作業段階を明確に定義し、その定義に沿うように厳しく決められたルールの下で働きます。
イメージ的には自動車工場がピッタリでしょう。
ある人はドアの取り付け、ある人はタイヤの取り付けといった感じで流れ作業が行われます。
大量生産に適した組織形態です。
一方、有機的組織とは機械的組織とは対照的な組織形態であり、流動的に変化していく組織です。
各業務の定義は緩やかなものであり、柔軟性と適応性を備えているのが特徴です。
緩やかに定義された仕事といえば曖昧な表現に感じるかも知れませんが、簡単に言えば職人の世界がこれに当たります。
師弟制度や経験を通して仕事を覚えていくことが求められていく世界であり、高い自律性や職業理論に統制されていることによって、画期的商品やサービスが生み出される世界です。
例えば寿司職人がそうですが、寿司職人は「飯炊き3年、握り8年」という、経験がモノを言う厳しい世界です。
しかし、その中で培った技術こそが、“画期的”ともいえる創作寿司を生み出したり、客に思いもかけぬ感動を与えたりします。
キャバクラの場合であれば、黒服やウェイターの仕事は機械的組織の方があっているでしょう。
キャバ嬢が手を挙げていたら素早く接近し、氷が少なくなっていたら「氷のおかわりだな」と察してテキパキと動く、という機械的な動きが求められます。
しかし、キャンバクラが他店と競合するうえで差別化を図るならば、いまだ他のキャバクラ店が見出していない「隙間」にいち早く目を付けて展開していく必要があり、その意味では有機的組織としての機能も必要としていることが分かります。
売れるキャバクラ店になるためには隙間の開拓と、時代に合わせたしなやかな改革が必要であり、キャバクラがしばしばシステムを変更しているのもひとえにそのためなのです。
お店に柔軟性を持たせ、話題性あるものを貪欲に吸収していき、環境の変化に適応していく姿勢が求められるのです。
ヘビーユーザーを知る
繁盛店の心がけとして、FSPの導入が盛んにおこなわれています。
FSPとは「フリークエント・ショッパーズ・プログラム」の略称であり、マーケティング用語の一つです。
つまり、自分のお店を利用してくれる客の利用頻度を知る手段であり、これによってヘビーユーザーを調べ、他店に流出しないように固有のサービスを提供することで、ロイヤルカスタマー(忠誠度の高い顧客)に育てる仕組みのことです。
この始まりは、アメリカン航空のアドバンテージプログラムにあります。
すでに多くの人が知る所となっていますが、アメリカン航空では利用客の飛行距離に応じてマイレージが貯まるというものです。
貯めたマイレージに応じて無料航空券と交換できるシステムですが、その真意はポイントの貯まる速度を知ることで、利用頻度の高い顧客を割り出すことにあります。
また、世の中には「80:20の法則(パレートの法則)」というものがあります。
これは、お店の売上の80%は20%のヘビーユーザーがもたらしているという法則です。
この原則を参考にした集客のためにも、FSPの導入は効果的と言えるでしょう。
FSPのポイントは、すべての顧客を平等に扱わないことにあります。
このように書くと「キャバクラでは客を差別しているの?」と不満に思う人もいるでしょうが、その通りです(これはキャバクラに限ったことではなく、世の中のよろずの商売に言えることです)。
顧客をランク分けし、ランクに応じて個別にサービスを提供しています。
それを可能にするのもFSPです(もっとも、原則としてすべての客に「手抜きのない」十分なサービスを提供しており、それにプラスしてどの程度のことをできるかという部分での差別化があるのです)。
FSPと聞くと、なんだか高度なコンピューターシステムでも使って、難解な数学的解析を行うのかと思うかも知れませんが、そんな大層なものではありません。
多くのお店でポイントカードを導入していますが、あれもFSPです。
「100ポイント貯まったら500円引き!」というシステムは、単なる客の呼び込みではなく、それ以上に顧客の利用頻度を調べるために導入しているのです。
キャバクラにしてみても、ポイントカードを導入している店舗がたくさんあり、これもまさしくFSPを狙ったものです。
客は貯めたポイントで特典を得られるという特典があるため、そのお得感から客の利用頻度を増やすことができ、同時に利用頻度も調べることができるのです。
また、単に「利用頻度の高い客」を調べるだけではなく、「優良顧客」を調べる手段にもなります。
なぜならば、お店でトラブルを起こすことなく、キャバ嬢やお店に迷惑をかけることもなく、長く通い節度を守りながら遊んでくれるのですから、これが優良顧客でないはずがありません。
そのような客を繋ぎとめるために、個別に特別サービスを提供するのは当たり前のことでしょう。
このシステムを利用することによって、キャバ嬢が管理する指名客の個人データを店が把握することができるようにもなります。
つまり、指名客の来店日や来店時間や滞在時間をキャバ嬢がメモするなどして把握しているものですが、これをお店が分析することによって、個別のサービスに応用することができるのです。
例えば、その客が毎月25日に来るという情報があれば、その客が来店した時に「お待ちしておりました、○○様」といって顧客満足度をくすぐることができるでしょう。
また、顧客の誕生日を把握していれば、お店からささやかなサービスを行うことも可能です。
理屈っぽく考えてみると、キャバクラには上記のような仕組みがあるのです。
キャバクラにとっては、来店頻度が高い客には普通以上に手厚いサービスを行うものであり、それを可能にするのがFSPです。
同時に、FSPの活用によって利用頻度の低い顧客を割り出すことも可能となり、そのような顧客の底上げもこのシステムを通じて可能となります。
しかし、キャバクラの運営サイドには専門的にマーケティングを学んだ人材が少ないためか、このシステムは導入されていたとしても、単に「ポイントを集めれば商品がもらえますよ!(だからもうちょっと利用頻度を増やしてよ)」といった発想の域を出ないことが多く、これからさらなる発展が求められるノウハウであると言えます。
サービスを単一にしない
キャバクラのサービスを分析してみると、サービスの種類には2種類あることが分かります。
それは、物的サービスと心的サービスです。
物的サービスの特徴は、目に見える形でサービスが提供されることです。
代表的なものとしては、FSPのためのポイントカードを発行すること、開店○周年の際に先着×名にボトルサービスを行う、セット料金の半額券などがあります(半額券は、かつてまだ携帯電話が普及していなかったころ、キャバ嬢の営業活動が手紙で行われた際に送られていましたが、しかし、今や営業活動のほとんどが電話やメールになったことで、あまり目にすることはなくなりました)。
また、顧客の囲い込みのために毎月1万円の会費を支払うことで90分の無料招待券がプレゼントされるという会員制度も物的サービスの一つと言えるでしょう。
このほか、物的サービスは多岐にわたり、顧客の囲い込み戦略の一環として、例えばキャバクラの入っているビルの一回で串焼き屋を経営したり、レストランを経営したりするのも物的サービスの一環と言えます。
つまり、グループ内でキャバクラにリンクさせる形で飲食店も経営すれば、同伴やアフターでそのお店を利用することによってグループにはより多くの収入が上がるのです。
このほか、同伴やアフターでキャバ嬢が運悪くぼったくり店などの不良店に選んでしったことで客に迷惑が及んだ場合、キャバクラ店と不良店が裏で繋がっているというよからぬ噂が広がってしまう危険性があります。
しかし、グループ店でリーズナブルなお店を用意していればそのような被害を受けることはなく、また客の懐にも優しく、色々な点で安心できます。
しかし、これらの物的サービスはお店の経費から行われるサービスであり、あまり大々的に行うことは難しいものです。
そこで重要になってくるのが、経費の掛からない心的サービスです。
心的サービスは、物的サービスに対して目に見えるサービスではありません。
しかし、このサービスを行うことによって客がより快適に過ごすことができるサービスです。
といってもなんら難しいことではなく、当たり前のサービスが当たり前に提供されることと考えて差し支えないでしょう。
キャバクラにおいて、キャバ嬢が客を80%程度癒すことができる普通の接客のためには、客がタバコを加えたら火をかざし、灰皿をこまめに換え、空いたグラスに飲み物を作り、グラスに水滴がついていればハンカチで拭くといったサービスを行います。
もちろん、しっかりと挨拶をすることや気持ちの良い笑顔を見せることも大切なことです。
また、黒服やウェイターもしっかりと挨拶を行ない、キャバ嬢がよりよく働けるようにきちんと働くことが求められます。
しかし、これらはごく当たり前のことです。
しかし、この当たり前のことができずに客が不快になっているお店は多いのです。
このことから、心的サービスの真髄は「客を不快にさせないこと」という事ができます。
心的サービスは基本のステップです。
この基本ができてこそ、物的サービスが初めて効果的となるのです。
心的サービスがぼろぼろのお店が客寄せのために物的サービスを大きく行っているのを見ることがありますが、所詮はそのようなサービスは根本解決にはなりません。
非常に簡単なことを言っているようですが、これが案外難しいのも事実です。
よく起きるトラブルの事例としては、価格や時間の問題があります。
例えば、自動延長(セット時間が終わることを告げずに自動で延長するシステム)のお店での作戦として、注文したものを時間ぎりぎりに運ぶ悪質なお店があります。
お分かりと思いますが、フードやドリンクをぎりぎりに届け、それを食べたり飲んだりしている内に自動延長に突入するという作戦です。
このほか、セット料金が説明と違ったり、キャバ嬢におごるドリンク代が違ったりといった問題は起きがち(特に激安店で)です。
ぼったくりというほどの金額ではないのですが、客が思っていたよりやや高く支払うハメになるのですから悪質です。
金額にして1000円や2000円程度のごまかしであることが多く、お酒が入っているため気づかなかったり、気づいても小さな金額のことでうるさく言うことを恥ずかしいと考えて何も言わない客が多いのです。
このような欠如したサービスを提供しているお店は、客を手放す覚悟でやっているのでしょうが、固定客を手放すのは非常にもったいないため、一見のフリー客がターゲットになることがほとんどです。
客が「店にだまされた」「意地悪いサービスのせいで延長するハメになった」などと思えば、客の心は離れていきます。
心的サービスが根本的に欠如しているのは明白であり、そんなお店はいつまでも繁盛することはなく、底辺をはいずり回るのが関の山でしょう。