キャバクラで働いていると、お客さんから色々な話を聞くことになりますが、お客さんの会話の内容を大まかに分けてみると、大体において嬉しかった話、不平・不満、愚痴、相談、噂話、仕事の話、恋愛の話などに分けられると思います。
このうち、嬉しかった話をしてくるお客さんとの会話では、容易に盛り上げていくことができるためあまり苦労することはないでしょう。
しかし、不平・不満や愚痴・悪口などのネガティブな話題であれば、ただ聞いているだけでは疲れてしまいますし、お客さんが一人でヒートアップしてイライラし、疲れてしまう可能性もあります。
そんなとき、売れっ子キャバ嬢たちは会話の内容をポジティブなものに転じるテクニックを利用しています。
本稿では、そのテクニックについて解説しようと思います。
キャバクラで行われるネガティブトーク
不平や不満や愚痴や悪口を言う人というのは、悩んでいるからこそそのようなことを口にするものです。
何の悩みもなく心中晴れ渡っていれば、ネガティブな発言などする気にはならないからです。
頭の中が悩みで一杯だと、「悩みがなくなれば楽なのにな」と考えるようになり、「こんな悩みがあるのもアイツのせいだ」「こんな悩みがあるのはあんなことがあったからだ」と、過去や現時点に起こった出来事に対して恨みを抱くようになります。
このように、過去や現時点に焦点が置かれることによって悩みが深まっている可能性が高いので、焦点を問題解決後の未来に持ってくるのがポイントです。
悩みがなくなればいいな・・・と考えるばかりで何も前に進まなかったという経験は、皆さんにもあるかもしれません。
そう考えるのではなく、もし悩みが解決したならば自分はどうなっているだろうと考えることがポイントです。
そうすると、過去や現在に悩んでいる今と解決後の未来のギャップが明らかになり、解決のための行動がそのギャップを埋めることなのだと気づき、悩みを解決しようという意欲が湧いてくるのです。
特に愚痴がそうですが、お客さんがそのたぐいのネガティブ発言をするときは、キャバ嬢から話を真剣に聞いてもらい、気遣って貰いたいと思っているからです。
ここで気遣いができれば二流、問題の解決策まで提示してサポートできれば一流です。
ネガティブをポジティブに転じる具体例
では、実際にどのような流れでサポートが行われていくのかを見ていきましょう。
私が実際に聞いたケースでは、以下のようなものがあります。
ある日、いつも上司と飲みに来る常連の一人が、珍しく一人で来店したことがありました。
そのお客さんは上司の指名のキャバ嬢を呼んで悩みを打ち明けました。
もう知っているかもしれないけど、僕は入社以来いつも精神的な弱さを上司から指摘されているんだ。
辛抱強く一つの仕事を進めるのが苦手だったり、待つことが肝心という時に心配性を発揮して、焦って要らない事をして失敗したり。
つい最近も同じようなことで大きな失敗をしたんだ。
なんとかかばってくれていた上司もさすがにうんざりしたみたいで、勤務年数が長くなれば後輩の手本にならなきゃいけないことや、難しい判断を任されることも増えてくるから、僕みたいな精神性のやつには務まらないって言われたよ。
この前の失敗の時にラストチャンスっていわれてたし、もうクビになるかもしれない。
いつも上司が指名しているキミなら何かわかるかな。
そうだったんですね。
今回はクビになるかギリギリのところなんですね。
そうなんだ。
僕としても必死にはなってるんだけど、上司の言う強い精神力っていうのが概念が抽象的なものだし、強い精神力を持てといわれても簡単にモテるものじゃないから、おとなしくクビを受け入れるしかないのかな。
僕なりに色々やってはみたけど無理だよ。
どんなことをやってみたんですか?
心を強くしなきゃいけないと思って、精神論の本を読んだよ。
本を読んだんですか。
それから?
上司の仕事のやり方を観察したりもしたよ。
あとは、これはどうなのかわからないけど、最近ではもうなんだかよくわからなくて『焦るな焦るな』『気合いだ気合いだ』って言い聞かせたりかな。
上司のやり方を観察したり、自分への声かけもしたんですね。
色々改善を試したんですね。
そうなんだよ。
だけど、強い精神力が身に着いたとは思えなくて、何も変わっていない気さえするよ。
だからミスが減らなくてクビの危機なわけだし。
どうしたらいいのかな。
それは不安になりますよね。
一つお聞きしてもいいですか?
なに?
ちょっと変わった質問なんですけど・・・。
今日帰ったら寝ますよね。
そこで例えばですよ、寝てる間に精神力の神様が下りてきて精神力がとっても強くなるんですけど、でも○○さんは寝てる間のことで精神力が強くなってることを知らないとしたら、どんなことで精神的な変化に気づくと思いますか?
それは、本来焦る場面でも焦る気持ちが起きないとか、面倒くさい仕事にたいして粘り強くなるとか、そういうことで気づくんじゃないかな。
そんなときって、どんな気持ちですか?
落ち着いた気分だと思うよ。
だって焦ってないんだからね。
落ち着いてる時ってどうですか?
仕事がうまくいくものですか?
うん、落ち着いてるときは何でもよくやれてるよ。
その落ち着きってどんな感覚ですか?
色々あるじゃないですか、感覚って。
頭の中がしゅわしゅわするとか、胸に重いものを感じるとか、下半身がふわふわするとか、後頭部の斜め45度の位置から自分を見下ろしてる感じとか。
落ち着いてるときの感覚ってどうですか?
う~ん、初めて考えるからよくわからないかな。
でも、頭の中が快晴の青空みたいにスーッとしてるかな。
それいいじゃないですか。
多分、その感覚って最近感じてないかもしれないですけど、焦りそうな場面とか忍耐力が切れそうになった時ってそういう頭の中じゃないと思うんです。
曇天の空みたいな感じじゃないですか?
その時にね、頭の中に強風を吹かせて雲を全部吹き飛ばすようなイメージで、快晴にするんですよ。
そしたら焦る気持ちが落ち着くと思いますよ。
へぇ~、なんでそんなこと知ってるの?
私、実はお昼はカウンセラーやってるんです。
このような問答ができるキャバ嬢はなかなかいないでしょうが、参考にはなるでしょう。
まず、最初の段階では問題の特定のために「本を読んだんですか。それから?」「どんなことをやってみたんですか?」といった質問を行っています。
このお客さん自身に状況を説明してもらうことによって、お客さんがこれまでどのような苦しい思いをしたか、どのような対策を行ったかなどが明らかになります。
お客さんは何もしてこなかったわけではなく、そのような頑張りをしていることを自覚してもらうためにねぎらいの言葉かけも行います。
そして、色々と明らかになったところで、このキャバ嬢が「変な質問」と表現したような質問を行います。
なぜ奇妙な質問をするのかと言えば、ある程度ぶっとんだ話に持っていくことで、問題解決後の未来に簡単に飛ぶことができるからです。
実際、この質問によって、落ち着いたこころで仕事をするかどうかが成功と失敗の分かれ目であることが分かりました。
非常に当たり前のことに思えるかも知れませんが、深く悩んでいる時には当たり前のことにも中々気づかないものですから、このような会話でも十分に有益なサポートになるのです。
「変な質問」の際には、未来に焦点を充てています。
過去や現在のことを考えるときというのは、固まった思考に陥りがちなものです。
一方、未来は過去や現在とは異なり、自由に想像することができ、柔軟な頭で考えることができます。
そんな時、思いがけない発想の転換が起こり、悩みが解決することも多いものです。
もっとも、上記の例はかなり高度なので、より簡易的な方法を提示しておいた方が良いでしょう。
もしこのような場面に遭遇したら、以下のような質問をしてみてください。
もしも、の話ですけど。○○さんの悩みが解決したら、どんなふうに毎日を過ごしていると思いますか?
もし10年後にタイムスリップして、今に自分に何かアドバイスできるとしたらなんて言いますか?
この質問をするときのポイントは、いきなり振るという事です。
じわじわと振っては意味がありません。
お客さんの過去や現在の愚痴や悩みがある程度明らかになったら、いきなりこの質問をして未来に飛びます。
もしじわじわと未来に持っていこうとすれば、現時点のネガティブな感情が未来まで持ち越されることとなり、意味がなくなってしまいます。
唐突に、現実離れしたことを質問とすることによって、お客さんは深みにはまっているところから視点を大きく変えて、質問を考えることになります。
つまり、ネガティブなペースを崩すことができるのです。
未来の、理想的な、ポジティブな自分について考えることができれば、その自分と今の自分とのギャップを知ることができ、それを埋めるための努力も可能となります。
その結果、手も足も出ないと考えていたのに実際にはやれることがあると気付き、解決に向かって歩めることが分かり、力が湧いてくるのです。
ネガティブな会話をポジティブな会話に変えるためには、是非このテクニックを使ってみてください。